大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)6431号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
一山本千代子は、被告に対し、本件建物を賃貸していたが、原告らは、昭和五四年七月一七日、山本千代子からその所有する本件建物を共同して買受け、本件建物の賃貸人の地位を承継したことは当事者間に争いがない。
二原告らは、被告に対し、昭和五六年四月二一日、調停申立をし、同年五月二六日第一回調停期日があつたことは当事者間に争いがないが、原告らが右調停申立書により立退料の提供を条件として本件建物の賃貸借契約解約の申入をしたことを認めるに足りる証拠はない。
しかし、原告らは、本件訴状により、被告に対し、正当事由にもとづく本件建物の賃貸借契約を理由に本件建物の明渡を求める旨の訴を提起し、本件訴状は昭和五六年九月一二日、被告に送達されたことは本件記録上明らかであるから、原告らは、同日、被告に対し、本件建物の賃貸借契約解約の申入をしたものと認めるのが相当である(原告らは、本件訴状による賃貸借契約解約の申入をも主張しているものと解される。)。
三そこで、右解約申入に正当の事由が存するか否かについて判断する。
<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。
1 原告らと被告は、山本千代子所有の一棟の建物(四戸建)の各一戸を使用していたものであるが、昭和五二年一一月末ころ、右建物の敷地の所有者諸江きぬえから土地の管理を任されていたセイキ不動産有限会社を経営する百瀬晴雄から、各自使用中の建物とその敷地を買つてほしい旨の申入を受け、以来四名で百瀬との間で交渉を重ねた。右交渉過程で、原告らは、百瀬から一棟の建物全部とその敷地を買取らなければ、他に一括して譲渡する旨を告げられたので、各自使用中の建物とその敷地を代金は建物が七〇万円、土地が坪当り一二万円で買取ることを決めたが、被告が百瀬の提示する右代金額で買取ることを拒んでいたので、やむなく、昭和五三年九月初めころ、とりあえず、一棟の建物とその敷地全部が他に一括譲渡されることを防ぐため、被告の賃借使用する本件建物とその敷地をも原告ら三名共同して買取ることにし、同年一〇月ころから順次各自使用する建物とその敷地を買受けるとともに、昭和五四年七月一七日、本件建物を代金七〇万円で、その敷地を代金一八八万八八〇〇円で、代金は各自三分の一ずつ負担して共同して買受けた。
2 原告海江田の妻の母杉田スミ子は、従前一棟の建物中西端の一戸を賃借していて、原告海江田が買受当時右建物の三畳、四畳半の二室を家財道具、資材の置場に、他の部分を車庫として自動車置場として使用していた。原告海江田は、昭和四八年九月ころから空調関係の営業を営み、大阪市鶴見区内の借地上にプレハブ建物を建ててこれを資材倉庫、作業場として使用しており、昭和五三年ころから妻と二人の子供とともに、老令の義母杉田スミ子の居宅に同人と同居して生活している。原告海江田は、右借地の所有者から土地の明渡を求められているので、右一棟の建物中の一戸を二階建に改築して拡張し、これを営業用に使用することを希望している。
3 原告池田の内縁の妻和田は、従前から一棟の建物中東端の一戸を賃借していた。原告池田は、右建物で帽子製造業を営むとともに、妻と二人で生活しているが「右建物の間取りは二畳、二畳半、四畳半、三畳の各室で、一〇年以上前から二畳半の間は物置兼居間に、四畳半の間は仕事場兼居間兼寝室に、三畳の間は仕事場にそれぞれ使用していて余裕が全くなく窮屈な生活を強いられているので、右建物を二階建に改築して拡張することを希望している。
4 原告山田は、昭和二二年ころから一棟の建物中西から二戸目の一戸を賃借し、右建物で洋傘加工業を営むとともに妻と二人で生活しているが、右建物の間取りは二畳、二畳半、四畳半二間の各室で、二畳の間は居間に、二畳半の間は居間兼物置に、四畳半の間は仕事場兼居間兼寝室に、他の四畳半の間は仕事場にそれぞれ使用していて余裕が全くなく窮屈な生活をしている。また、原告山田の長男降資は、従前勤務先の和歌山に居住していたが、昭和五六年一二月、転勤で戻つたものの、右建物が狭くて同居できないため、同月一二日、近くに四畳半のアパートの一室を賃料一か月一万一〇〇〇円で賃借して居住し、食事だけ原告山田宅で一緒にしている状況であるので、原告山田は、右建物を二階建に改築して拡張することを希望している。
5 右一棟の建物は、四戸建一棟で柱、壁を共用した長屋式の建物で各戸は公道に面した間口が共用柱の中心間で3.5メートル弱しかないので、東から二戸目の本件建物だけをそのまま残して原告ら使用の各建物だけを二階建に建替えることは技術的にも困難であるうえ、たとえ建替えたとしても、各戸の間口が狭いため、二階建として階段をつけると部屋がとれなくなつてしまうので、原告らは、一棟の建物全部をとりこわして全体の敷地を三等分にして各自二階建の建物を建築することを希望している。
6 被告は、昭和四六年ころから一棟の建物中東から二戸目の本件建物を賃借している。被告は、本件建物の近くの内縁の夫柏木幸一の居宅で同人と二人で生活しており、本件建物は被告の子供三人(昭和五八年一二月当時長女二三才、二女一九才、三女一八才)が寝泊りしている。被告は夫柏木とともにクロス縫製業を柏木宅で営み、右柏木宅は一階三畳と六畳二間、二階二畳半と三畳、六畳の間取りであるが、クロス縫製業の仕事場にもしているため三人の子供は同居して生活することが不可能な状況である。
以上の事実が認められ<る。>
右事実によると、原告らは、各自買取り所有するに至つた建物が狭いため、その営業上、生活上不自由を強いられているものではあるが、それは、各建物買取後に生じた事情ではなく、各建物買取の相当以前からその使用状況には特に変化はなかつたこと、原告らは、山本千代子から本件建物を共同して買受けて賃貸人の地位を承継したものではあるが、右買受に至つたのは、本件建物を含む一棟の建物全部をとりこわして原告ら三名の使用の便宜をはかる目的であつたのではなく、一棟の建物が他に一括譲渡されることを防止するため、被告が買取を拒んでいた本件建物をもとりあえず共同で買取る必要があつたためであつて、本件建物は被告が賃借していてこれを使用する必要があることを十分承知の上で買取つたものであること、被告は、昭和三六年より本件建物を賃借し、現在本件建物で自ら生活しているわけではないが、内縁の夫とともに同人宅で同居してクロス縫製業を営んでいる関係上、三人の子供を本件建物で居住させる必要があることなどの事情がうかがわれ、これらの事情を総合勘案すると、原告らが被告に対して立退料として一〇〇万円を提供していることを考慮に入れても、原告らの本件建物賃貸借契約解約の申入には正当の事由が存するものと認めることはできない。
したがつて、原告らの賃貸借契約終了を原因とする被告に対する本件請求は理由がない。 (山本矩夫)